「ま、そんな酷使したわけでもあるめぇ。久々に、こいつも働いたわけだな。たまにゃ使わねぇと、いざってときに折れるからなぁ」

 弓のしなり具合を確かめつつ、千之助は満足そうに言うと、弓を杉成に返した。

「しかし、いきなり匕首か。ちょいと物騒だな。早々に足場を固めたほうが良いかもなぁ」

「旦さん、伯狸楼に呶々女を入れたんだろ。繋ぎは取れたんかい?」

 狐姫が、ひょいと棚の上を見ながら言う。
 そこにあった張り子の虎がない。

「んにゃあ、今日覗いてみたが、何か店自体が殺気立っててよ。こらぁ迂闊に近づけねぇな、と思って、寄らなかった。とらに張らせてるからよ、何かあったら飛んでくるだろ」

 もしかしてあの猫は、棚にあった張り子の虎だったのだろうか、と小菊は辺りを見回した。

 部屋の中には、相変わらず訳のわからない人形が転がっている。
 杉成も、今のようにちょこんと座っていると、まるで人形のようだ。

 そういえば、初めに『杉成は人形だ』とか言ってなかったか。

「早く片ぁ付けないと、呶々女がいないと牙呪丸が寂しがろうに」

 狐姫が袖で口を隠しつつ、含み笑いを漏らす。