「あっ。旦那、美味そうな団子がある。この後旦那のところに寄るつもりだしさ、あの団子、小菊に買っていってやろうよ。目ぇ覚めるかも」

 一軒の茶屋の前で、小太が千之助の袖を引っ張って言う。
 小太はまだ小菊が目覚めたのを知らない。
 昨夜のことだから、まぁ当たり前か、と思いつつ、千之助は、ひっそりと笑いを噛み殺した。

 今は佐吉も目覚めた。
 今頃は二人で、今後のことについて話しているだろう。

「あのなぁ。お前、大事なこと忘れてねぇか」

 店先の長椅子に腰掛け、千之助は帯に挟んだ煙管を咥えた。
 出てきた茶屋の娘に、団子を二串頼む。

 きょとんとしている小太に、ふ、と紫煙を吐き出した。
 そうして、ぱ、と開いた手を小太の目の前に差し出す。

「支払い」

 ぴき、と小太が固まる。
 小菊が戻ったことに浮かれて、すっかり忘れていたようだ。

「だだだ旦那っ。そ、そんな殺生なぁ。おいら、そんなに金ねぇよぅ」

「馬鹿か。誰がタダでやってやるっつったよ。払うモン払わねぇと、簀巻きにして鴨川に浮かべんぜ」

 伯狸楼の蔵で聞いたようなことを言う。
 しかも何故か、千之助のほうがさらっと言っているのに、逆らえない雰囲気だ。
 ヤクザ者よりも、何だか恐ろしい。