「おぅ小太。真面目に手伝いしてるじゃねぇか」

 千之助の声に、忙しく店の中を走り回っていた小太は手を止めた。

「旦那っ」

 持っていた大根を手早く並べ、小太は千之助の傍に駆け寄ってきた。

「おまぃさん、もう傷はすっかり良いのかい」

「うん。もう全然」

 酷い痣があった腕をまくって見せる。
 もうほとんど傷は消えかかっている。

「そろそろまた、旦那のところに行こうと思ってたんだ。な、小菊の様子はどうだい?」

 急いで商品を並べる小太に、千之助は苦笑いをした。
 今姿は現していないが、千之助の肩の上では、狐姫も苦笑いをしていることだろう。

「ん~、まぁ、それはともかくだ。とりあえず、手伝いは終えちまいな。俺っちは女将さんに、入り用な物聞いてくるからよ」

 言いつつ、千之助は奥に座る番頭に声をかけた。
 番頭が手代を呼び、千之助を奥へと案内する。

 しばらく奥で女将相手に仕事をし、再び出てくると、小太が待っていた。

「休憩くれた。旦那は今から、どっか行くんかい?」

「ああ。清水のほうへ、買い物にな。お前にも用事があるし、一緒に来な」

 すぐにでも妖幻堂に行きたそうな小太を連れ、千之助は歩き出す。

 清水は、今も昔も変わらぬ賑わいだ。
 立ち並ぶ露天を冷やかしつつ、千之助は坂道を歩いていった。