「ちぇっ」

 佐吉が少し拗ねたように、息をついた。

「そうだ、清。あのお人なら、清の傷、治せねぇかな?」

 ふと、思いついたように佐吉が言う。
 佐吉の傷の手当てをした千之助なら、小菊の傷も治せるかもしれない、と思ったようだ。

「俺の傷も、よくわからねぇが、匕首で刺されたんだし、結構な傷だったと思うんだな。それを事も無げに治したあの人なら、それぐらいできそうだが」

「でもあたしの傷は、古傷ですから。ついてから二年も経ってますし、今から傷跡を消すことなんて、できないでしょう」

 言いながら、小菊は千之助の古傷を思い出した。
 傷跡を消せるなら、あの下腹部の傷も消せるのではないか。
 もっともあれは、狐姫の言うところによると、二年程度ではない、相当な昔の傷のようだが。

「そっか・・・・・・そうだな。まぁいいさ。そんな傷のことは、気に病む必要はねぇよ」

 ふぅ、と大きく息をつき、佐吉は軽く目を閉じた。
 そして、小菊のほうへ手を差し出す。

「清。もうどこへも行かねぇでくれるかい」

 小菊はそっと、佐吉の手を取った。
 泣きながら頷く。
 佐吉は安心したように、眠りに落ちていった。