「ふ~む、早速かい」

 夕餉の膳を前に、千之助は顎を撫でながら呟いた。

「なかなか敵さんも、侮れねぇな。もう小菊の居場所を掴んでやがる」

「掴んでたわけじゃねぇわさ。たまたま見っけただけだよ。手柄を独り占めしようとしてたもの。小者さね。頭ん中、引っ掻き回してやったから、今日のことなんざ、忘れちまってるだろうさ」

 ぺろりと舌なめずりをし、狐姫が言う。
 千之助が、傍らの匕首に目をやった。

「血の臭いがすんな」

「入れ墨者の匕首だもの。お綺麗なモンじゃないだろ」

「違いねぇ。けど、俺が言ってんのぁこれじゃねぇよ」

 言いながら、千之助は顎で玄関口を指す。
 狐姫が、口を尖らせた。

「殺してないよ。脳みそは多少潰れたかもしれないけど」

 恐ろしいことを言う。
 だが千之助は特に気にすることなく、部屋の隅の杉成に目を向けた。

「ちゃんと働いたようだな。弓は痛んじゃいねぇか?」

 千之助の言葉に、杉成はどこからか、小さな弓を取り出した。
 黙って千之助に差し出す。
 千之助は弓を受け取り、隅々まで点検した後、びぃんと一つ、弓を弾いた。