始末屋 妖幻堂

「わからねぇ。何か、『えらい真剣にお祈りしてましたな』って話しかけてきて。俺も何でか、事情をするすると言っちまったんだ。したら、『あそこは裏見世ってのがあって、嗜虐嗜好の客が遊女を嬲りものにする、外道な見世だ』って」

 ははぁ、と千之助は合点がいった。
 おそらく九郎助だ。
 佐吉がお参りしたのは、九郎助狐の祠だろう。
 あまりの佐吉の祈りに、伯狸楼を苦々しく思っていた九郎助が手を貸した、ということか。

 九郎助は、いうなれば花街の守神だ。
 しかし、いかな守神とはいえ、大っぴらに外道な見世を罰することはできない。
 人の世に、そう簡単に直接影響を及ぼすわけにはいかない故、佐吉のような者に知恵を授けるぐらいで、少しずつ伯狸楼に揺さぶりをかけていくしかできないのだ。
 今回のことは、伯狸楼を完全に潰す、良いきっかけとなったことだろう。

 それにしても、と千之助は、密かに笑いを噛み殺した。
 あの九郎助が、女子の姿を取るとは。

 妖狐の人型は、基本的に元々の性別による。
 九郎助は雄だ。
 故に、人型も男である。
 とりあえず妖(あやかし)ではあるので、姿を変えることなどお手の物だ。
 雄である九郎助が、女子の形を取ることも、難しくはないのだろうが。

「なるほどな。神のお導きってやつだな」

 笑いながら言う千之助だったが、小菊は硬い表情で俯いている。
 果たして佐吉は、どこまで知っているのだろう。

 実際には、そのような目に遭わずに済んだのだが、獣相手にさせられていたと聞いていたら・・・・・・。
 小菊は、ぎゅっと着物の合わせを握りしめた。