始末屋 妖幻堂

 何も言えず、小菊は狐姫を見つめる。
 そんな小菊に、狐姫は、ふ、と眼を細めた。

「昔々に、旦さんが寝物語に語ってくれたこった。あれからかれこれ、どのぐらい経つのかねぇ」

 母親が子供をあやすように、狐姫は千之助の髪を撫でる。
 ふ、と千之助が目を開けた。

 しばらくそのまま、狐姫の膝にいた千之助は、やがてゆっくりと上体を起こした。

「目ぇ覚めたか。どうだい、気分は」

 がしがしと頭を掻きながら、千之助が言う。
 小菊は、はっとしたように手をついた。

「あ、お陰様で、何だか楽になりました。ありがとうございます・・・・・・」

 言いながら、小菊は真っ赤になった。
 よく考えれば、恥ずかしいことを言っているような。
 夕べのことは、はっきり覚えていないとはいえ、何があったのか、さっぱりわからないわけではない。

「そうかい。そらぁ良かった。お前さん、他に怪我とかは、してねぇのか? どこか、辛ぇところとかはねぇか?」

 赤くなって俯いている小菊に、千之助は軽く言う。
 千之助のほうが、夕べのことなど忘れてしまったかのようだ。

 小菊はそそくさと立ち上がって、火にかけてあった鍋の蓋を取った。
 良い匂いが、ふわっと広がる。