始末屋 妖幻堂

「最近はともかく、昔の切腹は、壮絶だよ。介錯人なんざ、いないからね。何時間も苦しみ抜いて死ぬんだ。まして旦さんは、多分初めて切腹したヒトなんじゃないかね。誰も考えなかった、自害の仕方さ」

「その、自害をした旦那様が、何故今、ここに・・・・・・?」

 ただのヒトではない、とは思っていた。
 だが、幽霊というには、あまりに存在がしっかりしている。
 妖怪だろうか。

 小菊は、じっと千之助の寝顔を見つめた。
 ヒトとしておかしいところは、どこにもない。

「旦さんはねぇ、その、今際(いまわ)の際(きわ)に、救われたのさ」

「救われた?」

「救われたというか。観音様が、手を差し伸べてくださった」

 話がいきなり現実味を失い、小菊はぽかんと狐姫を見た。

「何故かはわからない。その昔は、上皇様の御ために兄と敵対してまで戦った故か、この国最恐の怨霊となられた上皇様のお力添えあってのものか。はたまた武勇の誉れ高き武将を哀れんでくれたのか。とにかく、手を差し伸べてくだすった観音様のお陰で、旦さんは一命を取り留めた。・・・・・・いや、命を繋いだわけではないわな。生まれ変わった、というのかね。観音様の、この世における救済の手助けをする、僕(しもべ)としてね」

 一体いつの時代の話なのか。
 小菊はただ、狐姫の言葉を聞いているだけだった。

「旦さんの、『千之助』ってぇ名前は、そのとき観音様から賜ったのさ。名に力が秘められている」

『千之助』。
観音様。
名に力。

『千』・・・・・・手観音・・・・・・。