「羨ましい・・・・・・」

 ぽつりと、小菊が呟いた。
 そこまで想い合えるということは、素晴らしいことではないだろうか。

「ふふ、そうかえ。ま、ヒトにはそうそう、現れないだろうね。これほどのお人に会うには、ヒトの一生なんて、短すぎるもの」

 狐姫が笑う。
 小菊は竈に鍋をかけてから、狐姫の傍に座った。

「姐さん。姐さんは、妖狐だって・・・・・・仰ってましたね。それでは・・・・・・」

 ちら、と小菊が、膝枕で眠る千之助を見る。
 相変わらず千之助の頭を撫でながら、狐姫は黙っていた。
 しばしの沈黙の後。

「・・・・・・旦さんの正体が、知りたいかえ」

 ぽつりと言われたことに、小菊は狐姫を見た。

「そういうわけでは・・・・・・ないのですけど。何て言うか・・・・・・。どういったお人なのか、と・・・・・・」

 もごもごと言う。
 狐姫は少し考えて、小菊を見た。

「あんたは旦さんを、何だと思ってるんだい?」

「わかりません。ただ、ただのヒトではないだろうな、と思うだけで」

「あちきは狐だって、さっき言ったね。ヒトじゃないってこった」

 こくん、と頷く。

「怖くないのかい?」

 意外な質問に、小菊はちょっと首を傾げた。
 小菊からすると意外だったのだが、普通に考えれば意外ではない。
 至って普通の質問だ。