「気にするこっちゃないよ。旦さんは、あちきがいないと寝られないヒトだからさ」

 相変わらず嬉しそうに、千之助を見つめる狐姫に、小菊は少し居心地が悪くなった。
 狐姫は、夕べのことを知っているのだろうか。
 考え、小菊はその場に手をついた。

「姐さん。すみません」

「? 何だい? あんたに謝られるようなこと、あったっけか」

 千之助の心が小菊に移ったわけではないので、寝取ったというわけではないのだが、狐姫の恋人と契ったのは確かだ。
 が、何だと言われて、素直にバラして良いものか。

 狐姫が知らないのなら、自分から言うのは良くないかもしれない。
 まだ恋愛経験もそうない小菊には、その辺りのさじ加減が難しく、黙りこくってしまった。

「・・・・・・気にするこっちゃないさね。あんたはさ、随分な目に遭ってきたんだし、先の幸せの妨げになるものは、取り去れるなら取り去ったほうがいい。それにあんたは、正式な依頼人だもの。旦さんが助けた以上、あんたの望むことは、できるだけ聞いてやるさ」

「姐さんは・・・・・・平気なんですか?」

 狐姫は知っているのだ。
 それに、小菊は内心驚く。
 狐姫は、ちらりと小菊を見、すぐに千之助に視線を落とした。

「平気・・・・・・じゃなかったけどね。でもねぇ、いいのさ。旦さんは、あちきが一等大事だって、わかったから」

 膝の上の千之助を、狐姫はとても愛しそうに見つめる。
 小菊は、返って胸が苦しくなった。
 この二人は、小菊のような小娘など、及びも付かない強い絆で結ばれているのだ。