「疲れた。ちょいと、眠る・・・・・・」

 甘えるように狐姫の膝枕で、千之助は目を閉じる。
 千之助が眠るとは、珍しいことだ。
 普段は眠らない。

 よっぽど力を使ったときなどに、眠って回復させることはあるが・・・・・・と考え、狐姫は、はっとする。
 千之助が眠るのは、狐姫の前でだけだ。
 今も、きっと狐姫が戻ってくるまで待っていたのだ。

「旦さん。あちきがもし戻って来なかったら、どうしたってんだい?」

 少し震える声で、狐姫は問うた。
 千之助は、目を閉じている。
 眠ってしまったのだろうか、と思ったころ、ぽつりと千之助が呟いた。

「・・・・・・困るな。俺っちが安心して眠れんのぁ、お前の傍でだけだからな」

 ああ、やっぱり、と、狐姫は緩む口元を抑えきれず、小さく笑った。
 ふ、と千之助が、薄く目を開く。

「何笑ってやがる」

 見上げる千之助に、狐姫は吹きだした。

「あははっ。何で旦さんは、あちきの前でしか寝られないんだろう? あちきじゃなくたって、同じだろ?」

 千之助の気持ちはわかったが、やはりはっきりと言って欲しい。
 狐姫は少し意地悪く言ってみる。
 千之助は、少し眉間に皺を刻んで、手を伸ばした。

「さっきも言ったろ。お前さんに勝る女はいねぇ。お前は俺がいなくなったら耐えられんと言ったが、それぁ俺っちだって同じだぜ。・・・・・・わかってねぇな」

 どうでもいい女と、何十年、何百年と一緒にいられるかよ、と呟き、千之助は伸ばした手で狐姫を引き寄せ、その唇を吸った。