始末屋 妖幻堂

 小菊が身を引くより早く、男の手が彼女の腕を掴む。
 弾みではっきりと、男の手首が露わになった。

 手首に施された、二重の入れ墨。
 罪人の証だ。

「伯狸楼の小菊だな」

 入れ墨まで入れられた罪人が、その辺をうろちょろできるわけはない。
 できるとしたら、わざわざそういった輩を使わねばならない者が、役人に賄賂を払って買い取った場合だ。
 表沙汰にできない商売をしている伯狸楼の亡八など、まさに打って付けの役目である。

「は、離して!」

 慌てて小菊は、掴まれた腕を振り回した。
 が、それが先の男の問いを肯定したことになり、男はますます手に力を入れる。

 入れ墨者など、容赦はない。
 小菊の腕に激痛が走った。

「こんなところにいたとはな。前にちらりと見て、まさかと思ったが、こいつは儲けものだ。まだ報告はしてねぇし、俺一人の手柄にできるぜ」