さっと小太の顔が強張り、だが次の瞬間には、背後の少女の手を引いて、座敷に上げた。
 急いで部屋の中を見回す。

「と、とにかくこの中に」

 部屋の隅にあった大きな長持に、半ば押し込むように少女を入れる。
 それとほぼ同時に、店先の暖簾が揺れ、一人の男が入ってきた。

「ああ、全く。売れるのは有り難ぇが、花街は朝から行くところじゃねぇわな。色気もクソもねーぜ」

 言いながら、どっかと背負っていた行李を降ろし、上がり框に腰を下ろして下駄を脱ぐ。

「お、お帰り、旦さん」

 太夫がさりげなく、小太が倒した張り子たちを直しながら、男を出迎えた。

 旦那というには小柄な、まだ若い男だ。
 これといって特徴もない顔は、部屋の張り子に紛れていれば、気づかないほど存在感がない。
 それだけに、返って不気味な印象とも言える。

「太夫ともなれば、起き抜けでも風情があるがな。おや小太、家のほうは、いいのかい」

 埃を払いつつ振り向いた男は、長持の前で緊張している小太に声をかける。