「もてる男は辛いねぇ」

「千さんの、どこがそんなに良いんだろうね」

 千之助の軽口を、呶々女はばっさりと斬る。
 がく、と千之助は肩を落とした。

「まぁ確かに。俺っちも自分でびっくりだ」

「ヒトってのは、命懸けで助けてくれた人に惹かれるんだね。・・・・・・千さんに『命懸け』ってことなんて、ないのにね」

 そもそも千之助の『命』は、大昔に消えている。
 だが。

「今回ばかりは、ヤバかったのは確かだぜ。狐姫が助けてくれなかったら、俺っちは今頃、灰になってたかも」

「え、そうなの?」

「ああ。ま、おめぇさんの言うとおり、命自体があるのかないのかわからんから、実際にはどうなったかは、わからんがな。・・・・・・狐姫にゃ、頭が上がらねぇな」

「おや、やっぱ千さんも、助けてくれた狐姫姐さんに惹かれてるじゃないか」

 あはは、と笑う呶々女の頭をぽんぽんと叩き、千之助も笑った。

「俺っちは、元々狐姫一筋だぜ」

 そう言って、千之助は清水のほうへと足を向けた。
 極上の油揚げを買って帰ってやらねば。