次の日、桔梗と芙蓉を口入れ屋に連れて行くついでに、顔見知りの商人に、小菫らを託した。
 千之助が送ってやれば、あっという間に村に戻してやれるが、生憎意識がしっかりしている状態で、そのような妙な力を披露するわけにはいかない。

 知り合いの商人は、各地を回って品を仕入れている者だ。
 千之助の商品の仕入れもしているので信用できる。

「じゃあ皆、元気でな」

 それぞれに手を振り、遊女らは新たな道へと踏み出して行った。
 相変わらず、桔梗は未練たらしく何度も振り返っていたが。

「ねぇ千さん。姐さんがたは、全部あのまま帰して良かったのかい?」

 方向が違うから、違う商人に託すという名目で残っていた呶々女が、二人になってから千之助に聞いた。
 小菫ら、村に帰る者らはともかく、芙蓉らのいる花街は、千之助の商いの縄張り内だ。
 距離も近い。

「大丈夫だよ。俺っちに関わることは、そのうち忘れるようになってる。一月もすれば、俺っちのことなんざ綺麗さっぱり忘却の彼方さ」

 妙な力を使う『始末屋』が、巷に広がらないのはそのためだ。
 客として千之助に関わっても、仕事が終われば徐々に妖幻堂の奥のことを忘れてしまう。

「今まではそうだったけどさ。あの桔梗姐さんの執着っぷりからすると、そう簡単に忘れるとも思えないんだよね」

 う~む、と千之助も考え込む。
 確かにそう言われれば、今まで客にここまで好かれたことはない。