「そうだよ。何も暗くなることじゃない。さ、そうと決まったら、とっとと休もう。もう夜も遅い。旦那さんも、早く休まないと。旦那さんが一番酷い怪我人なんだから」

「火事だけだったらそうだけど、元々の怪我は、あちきのほうが酷いよ」

 桔梗が、ちら、と着物の裾をめくって笑う。

「あんたも大分、治ったよね。ああ、もうこんな目に遭うこともないんだよね。それだけでも有り難いこった」

 さ、休むよ、と皆に声をかけ、遊女らはそれぞれ立ち上がった。
 千之助も、香炉を取り上げて立ち上がる。

「山吹ちゃん。あんたはどうすんだい? あちきらと、花街に戻る?」

 芙蓉が呶々女に声をかける。
 呶々女は少し考えた。
 今後の身の振り方を考えたわけではない。
 己が伯狸楼に入り込んだ経緯思い出し、おかしくないよう、よく考えてから答えなければならないからだ。

「あたしは家に帰ります。一応、あたしにも家はあるから」

 呶々女は自ら伯狸楼に身売りに来た。
 小菫らと同じように、どこぞの山間から都に出てきたと思われていることだろう。

「そっか、そうだね。あんたはよく働くし、どこでだって、やっていけるさ」

 くしゃくしゃと呶々女の頭を撫でる芙蓉に、呶々女はぺこりと頭を下げた。
 これでやっと、堀川でふて腐れている片割れの元に戻れる。
 千之助も呶々女も、やれやれと胸を撫で下ろした。