「苦界とはいえ、上手くいけば身請けされて人並みの暮らしができるぜ。借金もねぇから、気楽だろ」

「まぁね・・・・・・。でも・・・・・・」

 ちらりと、桔梗は千之助を見る。
 未練があるらしい。
 芙蓉が、つい、と桔梗の肩に手を置いた。

「あちきも残る。言葉遣いは、すぐには戻らないもの。村に帰ったって、このままじゃ浮くだろ。花街の、他の廓に雇ってもらう」

「そう・・・・・・だね」

 はぁ、とため息をつき、桔梗も頷いた。

「一旦苦界に落ちた孤児(みなしご)は、もう普通の町娘にゃ上がれないんだもんね」

「やけになりなさんな。伯狸楼の裏に比べりゃ、どんなところだって天国さ」

 あくまで軽く、千之助は言うが、やはり若干心が澱む。

---結局苦界に追い返すしかできねぇ。俺ぁ女衒にゃなれねぇな---

 村に帰るのを拒否したのも、花街に残ると決めたのも彼女らなのだから、千之助が花街に追い返したわけではないのだが。
 他の小菫らも、後ろめたそうに俯いている。

「もぅ! そんな暗くなるこっちゃないよ! 皆、あの地獄から抜け出せたんだから良かったじゃないか! 小菫姐さんたちはお家に帰って、桔梗姐さんらは、また花街で一花咲かせれば良いことでしょ!」

 何となく重苦しい空気に耐えかね、千之助の後ろから、呶々女が声を張り上げた。
 芙蓉が、にこりと笑う。