「それにしちゃ、伯狸楼の門をくぐるまで、そう距離がなかったような・・・・・・」

「でもさぁ、山の中で遊んでたような記憶もあるんだよ」

 う~んう~んと記憶を探る遊女らに、不意に呶々女が声をかけた。

「そういや桃香姐さん。小菊姐さんのこと、懐かしいって言ってましたね。もしかして、お知り合いだったりするのでは?」

「うん? う~ん・・・・・・どうかなぁ」

 ちら、と桃香が、奥の座敷の布団に寝かされている小菊を見る。
 いまだ小菊は目を覚まさない。

「・・・・・・その向こうの男に、見覚えはねぇか?」

 千之助が、つい、と煙管で小菊の向こうに、同じく寝かされている佐吉を指す。

「え~・・・・・・? う~ん・・・・・・。見たとこ、知った感じもしないんだけど」

「ちょっと整った、良い顔してるけどね~」

「あ、でも旦那さんのほうが、良い男だよっ」

 すかさず桃香が取り繕ったついでに、千之助の腕に取り付く。

「あっ桃香っ! ずるいよ、あちきだって別にあの男のほうが良いなんて、言ってないよっ」

 小菫が、千之助の反対側の腕に取り付く。
 うんざりと、千之助は軽く両手を挙げて、二人を振り払った。

「おいおい、ちょいと真剣に考えてくれや。おめぇら自身のことだぜ? いつまでもここにいるわけにもいくめぇ」