「お前さんら、生国(くに)のことぁ覚えてるかい?」

 ある夜、千之助は一階で、遊女らと車座になっていた。
 車座の中心には、香炉が置かれている。

「ん~・・・・・・。ええっと・・・・・・」

「山ん中だよ。山間の・・・・・・あれ? 町で生まれたんだっけ?」

 う~んう~んと首を捻る遊女らは、今初めて己の記憶に違和感を覚えたようだ。
 落ち着いて考えてみると、昔の記憶がごちゃごちゃになっていることがわかる。
 う~ん、と考える遊女らの顔に、不安の色がよぎる。

「ま、そう心配すんな。落ち着いて、順序立てて考えてみようぜ」

 遊女らを落ち着かせるように、千之助は軽く言い、煙管を吹かせた。
 裏見世の遊女は五人。
 桔梗と芙蓉、桃香に小菫、小萩。
 呶々女も千之助の後ろに控えている。

「まず、あんたらは何で伯狸楼に入った? 女衒に売られてのことか?」

「えっと・・・・・・。う、うん、そうだよ。伯狸楼には、誰かに連れて来られた。う~ん、男・・・・・・だったし、そんなじぃさんじゃなかったし。口入れ屋? かなぁ。いや、女衒だろ」

 小菫が、腕組みしつつ言う。
 口入れ屋に比べて、女衒は山奥の村にまで出向いて行ったりするので、比較的若い者が多いのだ。