また、単にこれ以上居候が入る余地はないというのも理由だ。
 今まで狐姫と二人、たまに杉成がいるぐらいのところに、いきなり遊女が五人。
 それに呶々女と、小菊と佐吉。
 妖幻堂の一階は、あり得ない大所帯だ。

 千之助に諭され、呶々女にも諭され、牙呪丸はしぶしぶ、堀川の屋敷に帰ったのだ。
 すっかりふて腐れてしまったが。

「使いにやる禿も、ねちねちと文句を垂れられるから、可哀相なんだよな」

 たまに千之助の要請で姿を現す禿は、杉成と同じ人形なので、感情というものはないはずだが、作った本人としては情がある。

 はぁ、と息をつき、煙管に手を伸ばしたとき、とたた、と軽い足音が階段を上ってきた。

「千さん。ちょいとあたし、夕飯の買い出しに行ってくるよ。ついでに家に寄って、牙呪丸の様子も見てくる」

 襖を開け、ひょいと顔を覗かせたのは、幼いままの呶々女だ。
 遊女らの手前、呶々女は『山吹』で通している。

「ああ。ちっとはご機嫌取っとかねぇとな。甘味でも差し入れてやんな」

「あんたも大変だねぇ。でかい子供のお守りは」

 金の入った巾着を渡してやる千之助の後ろから、狐姫が言う。

「全くね。それでもま、離れられないのは、姐さんだってわかるだろ?」

 悪戯っぽく笑いながら、呶々女は巾着を受け取ると、片目を瞑って襖を閉めた。