「全ては灰に帰す、か」

 ぽつりと呟き、千之助は煙管をふかしつつ、長火鉢に寄りかかった。

「旦那さん、ほら、まだしんどいんじゃないかい?」

 小菫が、千之助の肩に打ち掛けをかける。
 負けじと桃香が、茶を淹れて湯飲みを差し出す。

 今、妖幻堂には、伯狸楼の裏見世にいた遊女らが居候している。
 基本的に、客でない者が店の奥まで入ることは良しとしていないが、今回は事情が事情だ。

 それ以前に、そもそも千之助の意思とは無関係に、この遊女らが居座ってしまったといったほうが正しい。

「俺ぁちっと休むからよ、呶々・・・・・・山吹、後は頼んだぜ」

 べたべたと何かと世話を焼きたがる遊女らから逃げ、千之助は呶々女に言って、階段を上がっていった。
 呶々女も一応、同じ廓から逃げてきた禿ということになっている。

 呶々女は、うん、と頷くと、不満顔の遊女らの相手にかかった。
 さすがに家全部を明け渡すのは許さず、とりあえず遊女らには一階を与え、二階に上がることは許してない。

 うるさい女どもから逃れ、千之助は二階の部屋に入ると、ふぅ、と息をついた。
 疲れたように、敷いてある布団に倒れ込む。

「・・・・・・よぉ狐姫。いつまでもそんな膨れてねぇで、機嫌直してくれよ」

 部屋の中には、つん、とそっぽを向いた狐姫の姿。
 人型だが、いつもの豪華絢爛な出で立ちではない。
 単の上に打ち掛けだけで、髪も下ろしている。
 その髪も少し焦げ、手や足にも布が巻かれている。