「ちょいと桃香。いつまで旦那さんの傍に座ってんだい。あんたは火傷してないだろうが」

「何言うんだい。小菫こそ、足裏の火傷にかこつけて、旦那さんの傍ばっかに居座ってんじゃないよ」

「桔梗姐さん。ほら、遠慮しないで寝ててくださいな。千さんの世話は、あたしがしますから」

 ぎゃいぎゃいと言い合う遊女の間を、小さなままの呶々女が忙しく走り回る。
 遊女らは主に、千之助の周りにたかっている。

 伯狸楼が焼け落ちてから、早半月あまり。
 妖幻堂は、かつて無いほどの喧噪に包まれていた。

 伯狸楼の遊女は、あらかたが、そのままどこぞへ逃げ去った。
 色町に留まった者も、今後あそこほど酷い仕打ちは、受けることはないだろう。

 裏見世に関わっていた者は、あのとき全てが地下に集まっていたお陰で、全て処分できた。
 残りの下働きの者らも遊女らと共に逃げたし、楼主は行方知れず。
 あの火事の火元から、無事逃げおおせたとも思えない。

 廓のどこぞに阿片が隠してあっても、残らず燃えたはずだ。