始末屋 妖幻堂

「お前が玉藻よりも勝るだと? ふん、片腹痛いわ」

 不意に口を開いたのは、千之助ではなく九郎助だった。

「玉藻の全盛を知らぬくせに、勝手なことを抜かすでない。旦那、このような者、捨て置いて、さっさと出ねば。そろそろこの地下が崩れようぞ」

 言いながら、九郎助は踵を返す。
 そういえば、いきなり九郎助とおさんが現れたのは、九郎助の結界が破れたということだろう。
 その反動で、九郎助の操る火が広がったのだ。

「それもそうだな。忘れてたぜ。早めに出て、上の遊女らにも知らせてやらねぇと、逃げ遅れたら気の毒だしな」

 胸に貼り付くおさんを引き剥がし、千之助は辺りを見回した。
 九郎助の結界内にいたため気にならなかったが、今や辺り一面火の海だ。

「ちょ、旦那・・・・・・」

 慌てるおさんに、千之助は少し考えた。

「おさん、お前、さっきちょいと気になることを言ったな。お前はここで、そこにいる楼主とグルになってたわけじゃねぇってのかい?」

 楼主も、僅かだが結界内に入っているため、今のところ怪我はない。
 ただ、相変わらず目を見開いたまま、がくがくと震えて腰を抜かしている。
 おさんは、ちらりと楼主を見た。

「廓はねぇ、色恋渦巻くところだろ。遊女に実はないってのが通説だが、そんな遊女にも、命を預けて良いと思えるほど、真実惚れ込む相手ができたりするもんだ。並みの色恋じゃないよ。遊女が本気になったら、それこそ命懸けだ」

 曾根崎心中などに代表されるように、遊女の恋というのは、命を投げ出すのも惜しまないほどの激しいものだ。