始末屋 妖幻堂

「でも、あんた一人じゃねぇはずだ。亡八の目が光ってるだろ? おめおめ金蔓を逃がすほど、亡八は甘くねぇ」

「それが・・・・・・」

 居合わせた客の一人が、亡八の注意を引いたのだという。

「何だか亡八に水をぶっかけたのか、泥を跳ねたのか、とにかく着物を汚したようで、怒り狂う亡八を宥めつつ、店の奥に引っ張って行ったんです」

「客だろ? 小太の店の奥に連れ込んだってのか?」

「奥といっても、ここのような、帳場みたいなところですよ。お店のほうでも、店先で揉め事は御免被りたいでしょう。着物を洗うとか、拭くとか、多分そんなことを言っていたと思います。だから、ちょっと奥を貸してくれとか・・・・・・」

 気の荒い亡八は、確かにとっとと人目のないところに放り込んでしまったほうが、店の者にも他の客にも安全だ。

「亡八がその人とやり合ってる間に、あたしは商品を見るふりをして、少しずつ離れていって・・・・・・。そのときに、小太さんが、裏路地に引っ張ってくれたんです」

「・・・・・・ま、気の荒い奴ほど、頭に血が上ったら、周りが見えなくなるもんだ。そんときゃ、あんたのことなんざ頭の中から吹っ飛んでただろうけどな」

 ふ~む、と千之助は腕組みして考えた。
 運が良かったと言うしかない。
 できすぎの感は否めないが。