「上役は救済してくれる、お優しいカミサマだけどな、俺は昔の悪たれ根性が抜けねぇ。上役の名ぁをそんな汚ぇことに使われるのも、胸くそ悪いぜ。じわじわ苦しめなかっただけでも、感謝しろよ」

 最早聞こえてはいないであろう男に言い捨て、千之助は部屋の中を見渡した。
 そこに、もがれた腕が飛んでくる。

「うおおおぉおのれぇぇぇ」

 振り返ると、牙呪丸が辺り構わず男たちを薙ぎ倒している。
 あまりに近づきすぎた者に対しては、素早く巻き付いて、一瞬で締め上げる。

 あまりに締め付けが強く速いので、勢いが付きすぎて、ヒトの身体など耐えられない。
 絞められた部分から、衝撃で千切れてしまう。

 牙呪丸の周りには、千切れた身体の一部分が散らばっていた。

「あ~あ・・・・・・。あの牙呪丸をここまで怒らせるとは。珍しいな、呶々女に何かされたわけでもあるまいに」

 目の前の惨状に、若干呆気に取られて呟く千之助に、狐姫がこそっと耳打ちした。

『あの男どもがさ、牙呪丸の着物を散々切り裂いたからだよ』

「ん?」

 言われてよく見ると、怒り狂って男たちに襲いかかっている牙呪丸の着物はずたずたで、血も滲んでいる。