始末屋 妖幻堂

「人外の力ばっか使うのもつまらねぇ。平等じゃねぇだろ、それじゃ」

 ぺろりと傷口を舐めながら、千之助が言う。
 男はせせら笑った。

「その余裕が、いつまで続くかな。俺は、そいつらとは訳が違うぜ」

 初めと同じように、匕首を千之助に突きつけた男は、掛け声と共に地を蹴った。
 物凄い勢いで、匕首が繰り出される。
 口先だけではない。
 今までの者とは、腕がまるで違う。

「くっ」

 懸命にかわすが、そう広い部屋でもない。
 まして、牙呪丸の周りに群がる男たちもいるし、先に倒された者たちが、足元に転がっているのだ。
 そう自由に動けるわけでもない。

 転がる一人の男に蹴躓いた拍子に、匕首が千之助の胸を斬り裂いた。

『旦さんっ』

 思わず狐姫が、叫び声を上げる。
 だがまさか、狐が喋ったとは、誰も思わない。

 一瞬男は小菊を見たが、小菊は先程から畳に転がったまま、ぴくりともしない。
 少し男は首を傾げたが、すぐに千之助に視線を戻した。

「突きをかわすとは、大したもんだ。だが俺の千手突きは、突きとはいえ、それだけじゃねぇ」

 男が血の付いた匕首をなぞりながら言う。

「突きだけと思って油断してると、一気に間合いを詰めて、袈裟斬りに斬られるのさ」

「・・・・・・千手・・・・・・?」

 ゆらりと、千之助が胸を押さえて男に向き直った。