組み木を動かす千之助の足元で、ふと狐姫が思い出したように、辺りを見回した。

『そだ。旦さん、使える奴がいるかもしれないよ』

 そう言うと、狐姫は、ふっと姿を現し、足を踏ん張って、喉の奥から吠えた。
 常人には聞こえないが、狐姫に何らかの影響を受けた人間に作用する鳴き声だ。

 響く狐姫の声に応えるように、しばらくすると、壁が動いた。
 千之助が身構える。
 開く壁に隠れるように、様子を窺っていた千之助たちの前に、一人の男が現れた。

『旦さん。こいつ、以前あちきらを襲いに来た奴の仲間だよ。残りは始末したけど、こいつは壊れちゃったからさ、とりあえずこんなこともあろうかと、帰しておいたんだ』

「なるほど・・・・・・」

 言われてみれば、男は焦点の定まらない目で、ぼんやりしている。
 狐姫が、ずいっと前に出た。

『ほら、小菊のところに案内しな』

 姿を現した狐姫の声に、男はびくんと反応すると、操り人形のように、くるりと踵を返した。

「でかしたぜ、狐姫」

 男について中に入りながら、千之助は狐姫を抱き上げ、むぎゅ、と抱きしめた。
 狐姫は嬉しそうに、千之助の首筋に鼻を擦りつける。