「我もまた行くのか」

 若干不満げに、牙呪丸が言う。
 折角呶々女と再会できたのに、彼女とゆっくりできないばかりか、他の男の面倒を見させるということが気に入らないらしい。

 牙呪丸に関しては、呶々女の手を煩わすのであれば、それが男だろうが女だろうが、同じように気に入らないのだ。
 己以外に呶々女が構うこと自体が気に入らないという、まるで子供な蛇男なのであった。

「裏に乗り込むんだろ? 千さん、気をつけなよ。蔵にいた奴とは、多分比べものにならないようなヤクザ者が集まってると思う。入り口はさ、そっちの突き当たりの壁の組み木が、細工してあるんだ。どうにか動かすと、取っ手が出るみたいなんだけど・・・・・・。あたし、まだ一人で出入りしたことないからさ、そこまでわかんないんだ。ご免よ」

「壁の組み木か・・・・・・。厄介そうだな。わかった、ありがとよ」

 くしゃ、と呶々女の頭を撫で、千之助は見世に駆け戻った。
 その後ろを、呶々女に蹴り飛ばされるように急かされて、牙呪丸が追う。

 蔵は見世の裏手だ。
 同じく裏見世の入り口であろう壁まではすぐだ。

 千之助は壁に取り付き、組み木に手をかけた。
 適当に動かしてみる。

「う~ん・・・・・・。そう簡単にゃ動かねぇな」

 苛々と組み木を動かしながら、千之助が言う。
 小菊が連れ去られて、結構経っている。
 早くしないと、危険かもしれない。