「えええっ? だって、呶々女姐さんよりも、随分小さいじゃん」

「うるさいね。あたしはあくまで、偵察のために廓に入り込んだんだ。あのまんまじゃ、普通に勤めに出されちまうだろ」

 びしゃ、と濡らした布を、小太の顔に押しつけながら、呶々女が言う。

「それもこれも、あんたが千さんに、廓絡みのごたごたを押しつけたからじゃないか」

「そうだぞ、小倅。貴様のために、呶々女がこのようなところにまで入り込んだこと、感謝するがいい」

 牙呪丸が口を挟む。
 小太が、牙呪丸を見、拗ねたように唇を突き出した。
 が、呶々女と千之助には素直に謝る。

「・・・・・・ご免」

「何、無事で何よりだ。小菊のことは任せてよ、ここで大人しく待ってな」

 くしゃくしゃと頭を撫で、千之助は牙呪丸を促した。
 先程蔵の中で牙呪丸の蛇体を見たはずなのに、小太は特に何も言わない。
 知った呶々女の姿が変わっていても、そう驚くことなく受け入れている。

 小太は唯一、以前から客でもなく妖幻堂に関わっている人間だ。
 千之助の正体を知ってるわけでもないが、普通でないことにも気づいている。

 だがその上で、普通に付き合っているのだ。
 その肝っ玉の太さから言えば、小太もまた、普通でない、と言えるだろう。