「ほぉ。じゃあお前さんが、小太の厄介料を肩代わりするってこったな?」

 微妙に変わった空気にも、男は気づかない。
 いそいそと、懐から財布を出す。

「ああ。あんたを仲間にできるなら、安いもんだぜ。いくらだい?」

 そんな男をじっと見つめ、千之助はゆっくりと片手を上げた。
 手の平を、男の額を掴むように伸ばす。

「じゃ遠慮無く」

 男の額に当てた千之助の手の平が熱を持つ。

「・・・・・・へ。何だい、しょぼいな。こんなんじゃ、全部をもらったって足りねぇや」

 額から手を離し、千之助は袂から何かを取り出した。
 何が何だかわからず、棒立ちの男の背後に回った千之助は、とん、と男のうなじに、袂から出した手を叩き付けた。

「あとは牙呪丸。頼んだぜ」

「・・・・・・良いのか? 旦那」

 千之助の意を受けて、牙呪丸がするすると男に近づく。
 男は棒立ちになったままだ。

 先程のように、呆気に取られているためではない。
 動かそうにも、身体が動かないのだ。

 男は何故身体が動かないのかわかっていないが、彼のうなじには、先程千之助が叩き込んだ細い矢が刺さっている。
 身体の動きを止めるツボを、貫いているのだ。