始末屋 妖幻堂

「・・・・・・太夫は、もうちょっと考えて怒鳴らぬか。我や旦那の耳が潰れようぞ」

 耳を押さえつつ、牙呪丸が呟く。
 それにまた、狐姫がいきり立った。

『何だって! あんたに物事を考えろとか言われる筋合いはないわえ!』

「何を聞いておるのじゃ。ここでお主が叫んでも、我と旦那にしか聞こえぬのは、ちょっと考えればわかることぞ。怒ると物事を冷静に考えられないのは、女子の悪いところよな」

『きーーっ!! 何わかったような口利いてんだいっ! お前こそ、もっと状況に応じた受け答えができるようになってから、あちきに物言いな!!』

 敵地に乗り込んでヤクザ者と対峙しているというのに、目の前でぶつぶつ独り言を呟いている見目麗しい青年に、男たちは眉根を寄せて、お互いを見比べている。
 狐姫の姿が見えないので、男たちには牙呪丸が一人で喋っているようにしか見えないのだ。
 さぞかし不気味だろう。

「お、おい。何者だって聞いてんだ」

 気色の悪い美青年は置いておいて、男の一人が再び千之助の肩を掴んだ。

『触るなって言ってんだろっ!!』

 ただでさえ牙呪丸との言い合いで気の立っている狐姫が、叫ぶと同時に男の手に噛み付いた。
 容赦なく牙を立てる。

「・・・・・・っうっぎゃああぁぁぁぁ!」

 肩に置いた手に、いきなり激痛が走り、男は驚いて悲鳴を上げた。
 手を引こうとするが、狐姫が咥えて放さないので、男は千之助の肩を離せない。

 見えない何かに凄い力で掴まれ、さらに何かが手首に食い込んでいる。
 男は何が何だかわからず、ただ闇雲に己の腕を引っ張った。