「あ、じゃあ杉成さんは?」
狐姫が稲荷寿司を好むように、杉成にも好物があるのなら、明日はそれも作ってやろうと思い、小菊は部屋の隅の小僧を見た。
が、杉成は無表情で座ったまま。
まるで人形だ。
「杉成に『さん』なんざ、いらねぇよ。こいつは何も食わねぇ。強いて言うなら、水ぐれぇか」
「からくり人形だものねぇ」
さらりと言われたことに、小菊は口をあんぐり開けて固まる。
あまりにさりげなく言われたため、聞き流してしまいそうだったが、結構なことを言われたような。
「ああ、名ぁ決めねぇとな」
一通り膳の上を平らげて、千之助が湯飲みを口に運びながら言う。
「忘れてんなら、適当につけて構わねぇよな」
狐姫から聞いたのか、千之助は軽く言って小菊を見た。
少し考えて、小菊は頷いた。
名前---。
小菊の中にも、疑問がないわけではない。
昼間に狐姫に問われた通り、何故村のことや佐吉のことは覚えているのに、己の名前一つ覚えていないのか。
思い出そうとすると、それを拒否するかのように、思考が停止してしまう。
そういう状態に違和感はあるが、不思議と何が何でも思い出そうとする努力をする気も起こらないのだ。
「とりあえずは、『おゆう』と呼ぶか」
帯に挟んでいた根付けの紐を結いながら、千之助が言った。
紐を結って思いついた名前と知れる。
いかにも適当だが、小菊はこくりと頷いた。
狐姫が稲荷寿司を好むように、杉成にも好物があるのなら、明日はそれも作ってやろうと思い、小菊は部屋の隅の小僧を見た。
が、杉成は無表情で座ったまま。
まるで人形だ。
「杉成に『さん』なんざ、いらねぇよ。こいつは何も食わねぇ。強いて言うなら、水ぐれぇか」
「からくり人形だものねぇ」
さらりと言われたことに、小菊は口をあんぐり開けて固まる。
あまりにさりげなく言われたため、聞き流してしまいそうだったが、結構なことを言われたような。
「ああ、名ぁ決めねぇとな」
一通り膳の上を平らげて、千之助が湯飲みを口に運びながら言う。
「忘れてんなら、適当につけて構わねぇよな」
狐姫から聞いたのか、千之助は軽く言って小菊を見た。
少し考えて、小菊は頷いた。
名前---。
小菊の中にも、疑問がないわけではない。
昼間に狐姫に問われた通り、何故村のことや佐吉のことは覚えているのに、己の名前一つ覚えていないのか。
思い出そうとすると、それを拒否するかのように、思考が停止してしまう。
そういう状態に違和感はあるが、不思議と何が何でも思い出そうとする努力をする気も起こらないのだ。
「とりあえずは、『おゆう』と呼ぶか」
帯に挟んでいた根付けの紐を結いながら、千之助が言った。
紐を結って思いついた名前と知れる。
いかにも適当だが、小菊はこくりと頷いた。


