「よし。落ちねぇように注意しねぇと。もう引っ張り上げんのぁご免だぜ」

 千之助も、ひょいと飛び乗ると、龍はふわりと宙に浮く。
 ちょっと乱暴だが、千之助はうつ伏せになっている佐吉の上に跨り、腕に狐姫を抱いた。

 そのまま一路、都を目指す。

「あ、蓑がねぇな。ったく、便利なんだか不便なんだか、わからねぇな」

 龍の背で呟き、千之助は自分の着物を大きくはだけて、狐姫を包み込んだ。

『だ、旦さん』

 珍しく、狐姫が照れたように、少し暴れた。
 が、ぎゅっと押さえつけられ、狐姫は千之助の腕に封じ込められる。

「珍しい反応だねぇ。ふふ、お前さんが狐の姿じゃなかったら、我慢できなくなりそうだぜ」

『なっ何言ってんだいっ。だ、旦さん、熱が上がってきたんじゃないか?』

 わたわたと暴れる狐姫を、千之助は、ぎゅーっと抱きしめた。
 ふわふわの毛が、頬をくすぐる。
 腕の中で、まるで小娘のような狐姫に、千之助は笑った。

「ほら、あんまり暴れるな。折角俺っちが蓑代わりになってるのによ。そんなに暴れちゃ、濡れるだけじゃなく落ちるぜ」

 狐姫は一つ息をつき、大人しく千之助の肌にぴたりとくっついた。