「・・・・・・あんまり近づいたら、危ねぇぜ」

 忙しく木を削りながら言う千之助にも、狐姫は動かない。
 離れまいとしているかのようだ。

「心配性だな、狐姫は」

 普通であれば、身体にゴミがつくのは許せない狐姫だが、今は千之助の削った木の屑が身体の上に落ちてきても、微動だにしない。

『・・・・・・旦さんは、あちきの想いをわかってないね。あちきは旦さんがいなくなることなんて、耐えられないんだよ』

 それには答えず、千之助はしばらく無言で削っていた木を、ぽんと地に投げ出した。
 指を鳴らす。
 細く削られた木は、みるみる来るときに使ったような龍になった。

「よっこら・・・・・・。くそ、重てぇな」

 足元に転がしていた佐吉を、龍の背に乗せようと奮闘しながら、千之助が悪態をつく。

 佐吉は千之助よりでかい。
 加えて意識のない人間は重いのだ。
 小柄な千之助には、龍の背に佐吉を乗せることは容易ではない。

 狐姫が、ぽんと龍の背に乗って、上から佐吉を引っ張り上げる。
 二人がかりでようやっと、佐吉は龍の背に乗っかった。