『旦さん、大丈夫かい?』

 佐吉を引き摺って山に分け入った千之助の足元で、狐姫が心配そうに声をかける。
 千之助は黙ったまましばらく歩き、やがて倒れた木の前で立ち止まった。

「・・・・・・竹がねぇな」

 呟き、行く手を阻む木に腰掛けた。
 そして、帯を緩め、着物をはだける。

 下腹部の傷が、少し熱を持って盛り上がっている。

『ああもぅ。無茶しないでおくれ。今度この傷が開いたら、助からないよ』

「そんときゃ、狐姫、介錯頼むぜ」

『やだよ! 不吉なこと言わないどくれっ!』

 本気で怒り、狐姫はぷい、とそっぽを向いた。
 一つ息をつき、千之助は傷に手を当て、状態を確かめる。
 とりあえず、警告で済んだようだ。

「やれやれ・・・・・・」

 熱は持っているが、傷が開いたわけではないので、手当てのしようもない。
 着物を直し、千之助は、ざっと辺りを見渡した。

「竹が一番簡単なんだが・・・・・・。まぁいいか」

 ひょいとその辺に落ちていた大きめの枝を取り、小刀で削り出す。

 狐姫が、やっと千之助の傍に戻ってきた。
 気遣わしげに、千之助の膝に乗ると、下腹部の傷を庇うように、ふわふわの身体を押しつける。