「いやぁ、こんな美味い飯、久しぶりだな」

 暮れ六つの鐘が鳴り、店を閉めてから、千之助は膳を前に顔を綻ばせた。
 いつもの店の奥座敷には、千之助と小菊の他に、狐姫と杉成もいるが、膳は二つ。
 千之助と小菊の分しかない。
 何故か、狐姫と杉成はいらないという。

「お口に合って、ようございました」

 ほっとした表情で言う小菊に、千之助は箸で軽く彼女の前の膳を示した。

「遠慮しねぇで、おめぇも食え。折角の羮が冷えちまう」

「でも・・・・・・」

 ちら、と小菊は、千之助の横に座る狐姫と、部屋の隅にちょこんといる杉成に目をやった。
 いらないと言うものの、新参者の自分が、食べない人を前にして食事するのは躊躇われる。

「何、気にすんな。化け物小屋だっつったろ。普通のモンじゃねぇんだから、食うモンだって普通じゃねぇだけだ」

 飯をかき込みながら言う千之助に、小菊はきょとんとする。

「何さ、化け物化け物って、失礼な。ほら、あんたも気にしなくていいから、食いなって」

「・・・・・・あ、は、はい」

 狐姫にせっつかれ、小菊はようやく箸を取った。

「明日は稲荷を作ってくれるかい。油揚げは、常にあるからよ。狐姫の好物だ」

 格好に似合わず、えらく庶民的なものを好むのだな、と思いつつ、小菊は頷いた。
 相当好きなのだろう、狐姫が嬉しそうに笑った。