「そうか。お前のほうが、俺たちにとっては情報源として有力かもしれんが、お前を押さえるためにも、こいつは必要、ということか」

 言うなり、男は佐吉の手を踏みつける。
 佐吉が低く、呻き声を上げた。

 千之助は、ちらりと己に向かってにまりと笑う大男を見た。
 よほど自分の力に自信があるようだ。

 小男を一撃で倒したとはいえ、千之助だって大男に比べれば似たようなものだ。
 丸太のような腕を振り下ろせば、千之助など小男と同じように、呆気なく地に沈むだろう。

「俺は優しいから、先に言っておいてやるよ。兄ちゃん、あんまり無駄な抵抗はしねぇほうが良いぜ。大人しくしてりゃ、不必要に痛い目は見ないで済むんだからな」

 ばきばきと、これ見よがしに指を鳴らしながら言う。
 殺す気はないようだ。
 男たちにとっても、佐吉よりも千之助が鍵なのだろう。
 佐吉と共に、千之助も生け捕りにしたいはずだ。

---そっちのほうが、厄介なんだがな---

 千之助は、腰を落として大男の動きに備えた。
 殺さない程度に痛めつけられるほうが、むしろ殺されるよりも辛いものだ。

---ま、俺っちに関しては、殺す気で来たって同じ事だけどな---

 そもそもヒトでないのだ。
 そう簡単に、死ぬこともない。