「とりあえず、用が済んだからって、とっとと殺っちまうってのは感心しねぇ。仮にも救済の力を持つ俺っちがそんなこと許せば、腹の傷がぱっくり開かぁ。佐吉がどうしようもない悪たれだったら、別にいいけどな」

「・・・・・・? 何言ってやがる」

 訝しげな顔で、男が千之助を見る。
 そんな男に、千之助は薄く笑みを浮かべた。

「とにかく、お前さんらに佐吉を渡すわけにはいかねぇんだな」

 千之助が佐吉を庇うのは、先にも言ったとおり、本来あらゆるものを救済すべき立場である自分が、特に大した罪も犯してないような佐吉を見殺しにするのは忍びない、という理由と、また小菊のためという理由もある。

 主な記憶操作の元であった里がいなくなって、小菊の記憶が今現在どうなっているかはわからないが、小菊に関しては多分、おさんや伯狸楼の者の影響が大きいと思われる。
 特に異常もないのに村からいなくなった、唯一の人間だからだ。

 だったら記憶を呼び戻すきっかけに佐吉を使うのは、かなり有効だろう。
 万が一記憶が戻らなくても、佐吉が本当に小菊を想っていれば、彼に任せることができる。
 急激には戻らなくても、長く一緒にいれば、徐々に記憶は戻るだろう。

---それに、そんな真っ当な理由よりも、まずは的をばらけさせるほうが先決だしな---

 さっさと佐吉を殺して、二人がかりで来られても困るのだ。
 佐吉は頭の男の足元に、泥まみれで蹲っているが、意識がないわけではない。
 散々いたぶられているが、見張っていないと逃げるなり飛びかかるなりする危険がある。
 とりあえず、一人は佐吉に気を取らせておきたい。