始末屋 妖幻堂

 千之助の片眉が上がる。
 花街関係者であれば、聡い奴なら気づくだろう。
 行商で頻繁に足を運んでいるのだ。
 それなりに『気をつけて』はいるが。

 そもそもこのような輩、花街にいても、表には出て来ないものだ。
 下手に顔を晒せば、本来の仕事がしにくくなる。

「気のせいだろ? 俺っちはあんたと違って、そうヤバいことにゃ踏み込んでねぇぜ」

 軽く流す千之助に、男はなおも首を捻る。
 が、すぐに考えるのをやめた。

 こういう稼業故、どこかで会ったことがあるのは好ましくない。
 どういう状況であれ、あまり良い状況でないのは、まず間違いないからだ。

 思い出したほうが良いが、どうせ男は端から千之助をも消すつもりだ。
 それ故、別に過去、どのような場面を見られていても、問題ない。

「そうかもな。じゃ、質問再開といこうか。お前は一体、何者だ? こいつとどういう関係がある」

 男は足元の佐吉を、爪先で小突いた。

「俺は単なる小間物屋だ。佐吉はまぁ、俺がここまで出向いた目的って感じだな」

 懐手をして、千之助は素直に答えた。
 そして、顎で男を指す。

「あんたは? ああ、伯狸楼の男衆だったな。でも正規じゃねぇな。裏店専門ってところか」

 ぴく、と男の顔が引き攣る。