始末屋 妖幻堂

「ほざけぇっ!」

 男は千之助の足首を掴んでいた手を、思いきり地面に叩き付けるように振り下ろした。
 当然、掴まれていた千之助は、地面に叩き付けられる---はずだったが。

 大男が、たたらを踏む。
 力一杯振り下ろす途中で、いきなり腕が軽くなったのだ。
 驚いて顔を上げると、目の前には先程まで己がぶら下げていた男が佇んでいる。

「おやおや。足首に形がついてしまったな。俺っちに傷をつけると、後が怖ぇぜ?」

 視線を落として己の足首を見る千之助に、大男はもちろん、その場の誰もが呆気に取られた。
 いつの間に、大男の手をすり抜けたのだろう。

「くっ・・・・・・。そ、そんなこけおどしに、びびるとでも思ってんのかっ」

 こういう状況で、攻撃をしかける辺りが頭が悪い。
 今までの千之助の行動を考えれば、何となく不気味な空気を感じそうなものだが。

「こけおどしじゃねぇぜ~? 俺っちにゃ、おっそろしい色がついてるんだからよ」

 正確には『憑いている』だ。
 が、そんなことはどうでもいい。
 ますます頭に血が上った大男は、とうとう腰の匕首を抜いた。

「へっ。せいぜいほざいてろ。この俺様にそんな口叩いたこと、あの世で後悔するがいいぜ」

 べろり、と光る匕首を舐める。
 千之助が、顔をしかめた。