始末屋 妖幻堂

「お前こそ、そんなこと言ったら、てめぇの身が危ういってことぐらいわからんかっ」

 初めの攻撃をかわされたとはいえ、襲いかかる男は余裕の表情だ。
 千之助など、一見しただけでは、そう力があるようにも見えない。
 軽く千之助の太股以上もありそうな太い腕で殴られれば、一撃であの世行き確実に思える。

「ははははぁっ! 覚悟しろよっ」

 凶悪に笑いながら、男は再び千之助に掴みかかる。
 が、今度も千之助は、後ろに飛び退って男の手を避けた。

 しかし。

「甘いわっ」

 男の手が、ぐんと伸びた。
 見かけの重厚さからは想像できないような素早さで、男も前に飛んだのだ。
 手が、千之助の足首を掴む。

「食らえっ」

 男は足首を掴んだ手を引き寄せつつ、拳を千之助の顔面目掛けて繰り出した。
 千之助は腰を捻って拳を避けた。
 だが足首は掴まれたままなので、身体は男に引き寄せられてしまう。

 そのまま男は、手を引き上げた。
 千之助の身体も、ぶらりとぶら下がる。

「なかなかすばしこい奴だな。まぁ一撃で仕留めちまったら面白くねぇ」

 千之助を逆さまにぶら下げたまま、男は、にぃっと笑った。