「いや、さすがにあの長も、自分の家から出すハメになった人たちだ。なかなか信用してくれなかったさ」

 少し自嘲気味に、佐吉は言った。

「けど清が・・・・・・口添えしてくれたんだ。ま、柄にもなく、その頃は清のために、いろいろやってたからな。水汲みを手伝ってやったりさ」

 佐吉的には涙ぐましい努力を重ねていたのだろう。
 が、そんないじらしい努力も、すっかり擦れた千之助は、内心『けっ』と笑い飛ばす。

「残念ながら、お清のその心も、結局はお前の汚ぇ欲望に加担するハメになっただけってこったな」

 白んできた東の空を睨み、千之助は、もたれていた身体を起こした。

「お前、結局その引き取った奴らを、博徒に売ったんだろ?」

 死んだ奴は埋葬してやったかもしれない。
 だが、回復した者だって、いたのではないか。
 そもそも、皆が皆病ではなかったのだ。

 冴はただおかしくなっただけの者には家があったと言っていたが、そんな綺麗にわけていたら、返って怪しい。
 精気を吸うのは簡単だが、おかしくするのは、そう簡単なことではない。
 家のある者全員が、都合良く脳みそや心を壊してくれるとは思えない。

 菊という娘の隣の爺のように、病で帰された者もいるのだ。
 同じように、おかしくなっただけの者の中にも、家のない者だっていただろう。
 そういった者までがこの場にいないのは、死んだからではないはずだ。