始末屋 妖幻堂

「あちきが接客するのぁ、それなりの常連だけだよ。冷やかしや一見なんかに、あちきが見えるわけないだろ」

「? え? だって・・・・・・」

 一応通りに面した店だ。
 通りすがりに寄っていく客だって多いだろう。
 見えないのなら、一体接客は誰がするのか。
 そもそも、『見えない』というのはどういうことなのか。

 疑問符の浮かぶ小菊に、狐姫はぱんぱんと手を打ってみせた。

「旦さんが、他にもいるっつったろ。心配ないよ」

 狐姫の言葉を肯定するように、奥からとことこと小僧が出てきた。

「杉成(すぎなり)、店の前の掃除を頼むよ」

 呆気に取られる小菊の前を横切り、小僧はとんと土間に下りると、竹箒を持って外に出て行った。

「店のことは大丈夫。それよりあんたぁ、あんま表に顔出すんじゃないよ。そうだ、名前も変えないとね。小菊ってのぁ、源氏名だろ?」

 狐姫に手招きされ、小菊は我に返って座敷に上がった。

「元の名ぁ、なんてんだい?」

 小菊は少し考えたが、ふるふると首を振った。

「覚えてません。それに、覚えていても元の名など名乗っていたら、バレるのでは」

「本人でさえ忘れてる名前を、置屋の女将なんかが覚えてるわけないだろ。そんな甘い世界じゃないってことぐらい、あんたが一等わかってるんじゃないのかえ」