始末屋 妖幻堂

『ちょいと旦さん』

 思わず声を上げた狐姫に、千之助は口の前に人差し指を立てて黙らせた。
 そのまま、気にせず戸を引き開ける。
 人が一人通れるほどに戸が開いたと同時に、中の人影が動いた。

「・・・・・・佐吉さんかい」

 戸口で、千之助は中の影に声をかけた。
 ぴく、と影が強張るのが伝わる。

「ここは長の家から暇を出された者らのための家だそうじゃねぇか。なのに、あんたしかいねぇのは、おかしかねぇか」

 ぐるりと中を見渡す。
 がらんとした室内。
 囲炉裏すらない内部には、人の暮らしの跡もない。
 千之助は一歩、土間に足を踏み入れた。

「・・・・・・誰だい、あんた」

 奥から声が返ってきた。
 警戒心を露わにした声だ。

 千之助は、後ろ手で戸を閉めた。
 それから指をぱちんと鳴らす。
 千之助の手の平に、ぽっと灯りが灯った。
 明るくなった小屋の内部に、驚愕に目を見開いた男が浮かび上がった。

 千之助は、まじまじと男の顔を観察した。
 なるほど、なかなか整った顔立ちだ。