夜の闇の中を、一人と一匹は風のように走って、村の端っこの掘っ立て小屋に辿り着いた。
 辺りは闇に包まれているが、千之助も狐姫も、特に不自由さを感じさせることなく引き戸を開ける。

『嫌な気だねぇ。僅かだけど』

 狐姫が、前足で鼻先を押さえながら言う。
 さすがに高等な妖怪。
 羅刹女の気配を感じたらしい。

 千之助は、前に術を用いて垣間見た事件を狐姫に説明した。

「で、まぁ佐吉の親父の死因はわかったんだが、わからねぇのは兄貴のほうよ」

 言いながら、千之助は板の間の奥に積もった塵に歩み寄った。
 佐吉の兄の、成れの果てだ。
 狐姫は、千之助の横から塵に鼻を近づけた。

『う~ん・・・・・・わわっ』

 塵を探っていた狐姫が、いきなり後ろに飛び退いた。
 そして、ぶんぶんと塵を払うように頭を振る。

「どしたぃ、狐姫」

 くしゃみを繰り返す狐姫を抱き上げ、千之助は狐姫を覗き込んだ。

『旦さん、こいつ、淫の塊だよっ』

「何だってぇ?」

 意外そうに、千之助は塵の前にしゃがみ込んだ。