「狐姫太夫にそこまで想われて、俺っちは幸せモンだねぇ。すっからかんになった甲斐があったってなもんよ」

 冗談めかして言う千之助の腕の中で、狐姫は小娘のように、縋るような目を向けた。

「ねぇ旦さん。さっさと帰ろうよ。もうここでの用事は済んだんだろ? あちきは早く、家で旦さんとゆっくりしたいよ」

 千之助の浴衣の合わせをいじくりながら、狐姫は訴える。
 確かにこの村での用事はほぼ終わった。

 この家からいなくなった者は、どうやら伯狸楼の裏店にいるようだし、そうでなくても、少なくともこの村にはいない。
 確かめるところがあるとすれば、佐吉の作ったという小屋だ。

「そうさな。じゃ、冴も眠らせたことだし、ちょっくら佐吉の小屋に行ってみるか」

 折良く狐姫が来てくれた。
 もう一度佐吉の家に行けば、狐姫なら何か掴んでくれるだろう。

「そんじゃ狐姫。ちょいとついてきておくれ」

「あいよ」

 事細かに指示しなくても、狐姫は千之助の意を受けて、くるりと宙返りをすると、金色の毛並みの狐になった。
 千之助は、狐の姿の狐姫と共に、するりと屋敷を抜け出していった。