始末屋 妖幻堂

 慌てて猫を降ろし、小菊は小走りに店先に下りた。
 手早く襷を掛け、立てかけてあった暖簾をかける。
 その上で、竹箒で店先を掃除し始めた。

 が、いきなり狐姫が腕を掴んで小菊を店の中に入れた。

「馬鹿だね、あんた。ここは花街から目と鼻の先だよ。花街から逃げてきたあんたが店先をうろちょろしてちゃ、あっという間にとっ捕まっちまうよ」

 店の中の掃除をしてな、と言い、狐姫は商品を並べ始める。

「あの、じゃあ井戸は・・・・・・」

「井戸ならそっち。厨のほうの、裏道だよ。そっちなら大丈夫だろ」

 狐姫に顎で示されたほうに、小菊は桶を持って走っていった。
 手早く水を汲み、店に戻ると手拭いを絞って床を拭き始める。
 こういう仕事は慣れっこなのだ。

 手際良く店を磨き上げる小菊を、狐姫は少し感心したように見つめた。

「あんたぁ、よっく働くねぇ。禿とはいえ、そういう仕事は変に傷がつくかもしれないから、あんまり商品にはさせないもんじゃないかえ」

 奥に引っ込んで、脇息に寄りかかっていた狐姫の言葉に、小菊は自嘲気味な笑いを浮かべた。

「あたしは、売られてすぐに傷物になったんで、どうせまともな客は付かないし、一生裏方だろうってことで、ずっと御半下仕事をしてきましたから」