始末屋 妖幻堂

 その頃、小菊は小間物屋の中を物色していた。
 物色というと感じが悪いが、ご飯を作ろうにも、小間物屋を手伝おうにも、どこに何があるのかわからないのだ。

 いきなり店を開ける勇気はなかったため、とりあえずできることといったら、ご飯を作ることぐらいだ。
 千之助がいつ帰ってくるかはわからないが、白飯ぐらいは炊いておいても差し支えないだろう。

 そう思い、土間の辺りを探っていると、いきなり視界が暗くなった。
 驚いて顔を上げると、いつの間に来たのか、狐姫が覗き込んでいる。

「何やってんだい。お宝なんざ、ここにゃないよ」

「っっ!」

 驚きのあまり、息を呑んで固まる小菊に、狐姫はふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
 そして、小菊に抱えられている縞の猫に目をやった。

「とら、旦さんに出してもらったんかい」

 狐姫の言葉に答えるように、猫は『にゃ』と鳴いた。

 そうだ、この猫は虎にそっくりなのだ。
 小菊は猫をまじまじと見た。
 もっとも虎など、屏風絵でしか見たことはないが。

 そんなことをしている間に、狐姫は店のほうに移動し、表の板戸を開けて、店を開いた。

「ほれ。何ぼさっとしてるんだい。さっさと暖簾かけて、掃除だよ」

「あ、は、はい」