見てくれが良くて口が上手かったら、奥手な娘などひとたまりもないのではないか。
 お清が小菊で、佐吉の口車にほいほい乗って、廓に売り飛ばされたということだろうか。

 う~む、と眉間に皺を刻む千之助に何を思ったのか、冴は、つい、と身を寄せた。

「安心しなって。あんな奴よりも、千さんのほうが、よっぽどいい男だよ」

 意味ありげに、上目遣いで言う。
 考え事をしていた千之助は、何のことやら訳がわからず、曖昧に微笑んだ。
 その笑みに、冴はがばっと千之助に抱きついた。

「ああっ! もう千さん! 何て罪な男なんだいっ!!」

「な、何でぃ。どうしたんだ」

 いきなり抱きつかれて、千之助はわたわたと慌てる。
 何度も言うが、千之助は小柄で細身だ。
 あまり背丈の変わらない冴に抱きつかれると、倒れてしまいそうになる。

「千さんがそんなに格好良いから、あたしゃ諦められないんだよ」

 よろめく千之助を、冴は力任せにぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「ねぇ千さん。お願いだよぅ、今夜は、ね・・・・・・」

 熱っぽい瞳を向ける冴に、千之助は僅かに顔をしかめる。
 今夜のうちに、とっとと佐吉が建てたという小屋を訪ねたい。
 その他にも、あらゆる方法を用いて手がかりを掴むつもりだった。

 だが冴がいたら、妙なことはできない。

---けど冴からも、出来うる限りの情報を引き出さねぇとな。佐吉も捕まらねぇし---

 とりあえずそのまま、二人は家に帰った。