う~む、と千之助は考える。
 確かに冴の言うとおりだ。
 普通の人間なら、物騒な気配のするところに、わざわざ夜、一人で行くことなどしないだろう。

 だが、それはあくまで『普通の人間』の場合だ。

「なぁお冴さん。佐吉ってのぁ、そんな悪たれだったのかい? 村の娘たちにゃ人気だったんだろ?」

 とりあえず、千之助は話題を変えた。

「村の娘ってか、純粋な村娘は、そんなことなかったよ。あからさまに無視とかはしないけど。適当に付き合ってた。ま、話は確かに上手いもの。ただ、うちの女中とかは、ほら、外から来た子とかが多いって言ったろ? そういう子はさ、あいつの家がどういう状態かとか知らないから、結構騒いでたね」

「その・・・・・・お清って子もか?」

 千之助の問いに、冴は首を傾げる。

「お清は・・・・・・騒いでなかったなぁ。あの子はこの村の子だけど、元々奥手な子だったし。あっでも、佐吉がちょっかい出してるのは見たことあるよ。真っ赤になって、困ってたもの」

「佐吉って、見るからに悪たれって感じじゃねぇんだよな?」

「違うね。だからこそ、奴の背景を知らない娘は騙されるのさ。見てくれは良いよ」